プロダクション・ノート1|2|3 (End)
「小僧が我々の秘密をかぎつけたぞ、ナギニ」
自分とヴォルデモートをつなぐ不可解な接点に、ハリーはおびえ、苦しむが、その接点ゆえにヴォルデモートの心の内を読むことができる。ついにヴォルデモートはハリーたちの動きに感づいたらしい。さらに悪いことに、分霊箱を破壊するたびにヴォルデモートは衰弱するどころか危険性を増し、追い詰められた手負いの獣のようになっていく。
イェーツが説明する。「ハリーが分霊箱を探していることを知ったヴォルデモートは初めて生命の危機を感じるんだ。そして肉体的にも精神的にも弱くなる」
「分霊箱がひとつ壊れると、ヴォルデモートを支えているものもひとつ壊れる。監督のデイビッドには『ヴォルデモートが内側から崩れていくようすを演じてほしい』と言われたよ」とレイフ・ファインズは明かす。「デイビッドのビジョンはすばらしかった。たとえ数秒間のシーンであっても、ヴォルデモートの内部で起きていることを、ひとつ残らず描き出そうとしてくれたんだ。僕にとっては本当にありがたかった」
イェーツが言う。「僕もレイフも、ヴォルデモートが感じている恐怖や怒り、ヴォルデモートが悪の化身になった理由をすべて表現したかったんだ」
視覚効果を監修するティム・バークは、分霊箱とともに破壊されるヴォルデモートのかけらを目に見える形で表現しようと考えた。「ヴォルデモートの悪意を具現化するからには、陰湿で恐ろしい映像にしなければなりません。観客の恐怖心を呼び覚ますくらいのビジュアルをめざしました」
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』で復活を遂げたヴォルデモートだが、そのヘビを思わせる容姿は視覚効果の力なくしては完成しなかっただろう。バークが説明する。「我々はその作業を“デジタル・メイク”と呼んでいますが、レイフ・ファインズの顔の造作を少々いじって、ヘビっぽい特徴を加えるんです。細長い鼻の穴はそのひとつですね。デジタル・メイクを施すには、ヴォルデモートの登場するシーンをひとコマずつ検証して、レイフの表情の変化を追いました。それは相当な重労働でした」
視覚効果チームはヘビそのものにもデジタル技術を駆使。そのヘビとはヴォルデモートのそばを片時も離れない、ペットのナギニだ。「ヴォルデモートもナギニにだけはやさしく接するんだ」とファインズは言う。「たぶん、生まれて初めて心を許した相手じゃないかな。ナギニは相棒のような存在なんだよ」
「あなたはダンブルドア先生の弟、アバーフォースですね」
ヴォルデモートの心の内をのぞいたハリーは、残りの分霊箱がホグワーツにあることを確信する。「ヴォルデモートがホグワーツを分霊箱の隠し場所に選んだとしても不思議はないわ」とローリングは指摘する。「これまでにもヴォルデモートは自分にゆかりのある場所を隠し場所にしてきた。それに彼はかつてホグワーツに暮らしていたでしょう。そこはヴォルデモートとハリーの大きな共通点―どちらにとっても、ホグワーツは安全な逃げ場だったの」
しかしハリーにとって安住の地だったホグワーツも、今では敵陣に変わってしまった。死喰い人が校内を制圧し、吸魂鬼(ディメンター)が校舎の周辺を巡回。そんなところへ戻れば、ハリー自身はもちろん、生徒や先生をも危険にさらすことになるだろう。しかし、冒さなければならない危険もある。
ハリー、ハーマイオニー、ロンはホグズミードの秘密の通路を経由して、ホグワーツに潜入する。しかし3人の姿は捕らえられ、アラームが鳴り響く。3人が逃げ場を失うと思われたその瞬間、ある扉が開き、見覚えのある風貌をした人物が3人を部屋の中に招き入れてくれた。今は亡きアルバス・ダンブルドアの面影を宿すその人物は、ダンブルドアと疎遠になっていた実弟アバーフォース・ダンブルドアだった。
キアラン・ハインズ扮するアバーフォースは兄に対して積年の恨みをもっているが、それは幼少期の出来事に端を発していた。ハインズが説明する。「兄弟の間にわだかまりが生まれたのは、アルバスがある決断をしたことによって、妹のアリアナが命を落とすことになったからなんだ。その口ぶりから察するに、アバーフォースの心の時計は、そのときから止まったままじゃないかな」
ハインズ扮するアバーフォースとマイケル・ガンボン演じるアルバスは瓜二つの兄弟というわけではない。しかし特殊メイク効果のニック・ダドマンとメイクアップ・デザイナーのアマンダ・ナイトの尽力によって、ふたりの間に血のつながりがあることは容易に見て取れる。
だが服装となると話は別だ。衣装のジャニー・ティマイムが指摘する。「ふたりの格好は対照的です。アバーフォースはパブの経営者ですが、アルバスは教師でしたからね。ただし、ふたりには同じスコットランド系の血が流れていますから、素材にキルトを採り入れてみました」
ハリーを助けてくれたアバーフォースだが、兄に対するわだかまりをハリーにもぶつける。しまいには「命を賭してまでアルバスに託された使命をまっとうする必要はない」とハリーに勧告する。たしかに、ダンブルドアにまつわる黒い噂はハリーの耳にも入っていたが、それでもハリーの気持ちは揺るがない。「最終章のメインテーマのひとつは信頼関係なんだ」とラドクリフが指摘する。「人格が問われている人物をハリーはいつまで信じていられるんだろう」
その問いに、製作のバロンが答える。「ハリーは心に決めるんです、自分が知っているダンブルドア先生を信じようと。ずっと尊敬してきた先生、いつでも頼りになった先生を信じることにしたんですよ。そう決めた以上、ダンブルドアに託された重大な使命は是が非でもまっとうしなくてはいけません」
「スネイプに知られたわ。スネイプはハリーが戻ってきたことを知っているの」
ハリーの固い決意にアバーフォースは根負けし、ハリーの力になってくれる協力者を呼び寄せた??同級生のネビル・ロングボトムだ。3人はネビルとの再会を喜ぶ一方で、その痛々しい姿にがく然とする。ネビルが制裁を受けたことは一目瞭然だ。それだけホグワーツは変わってしまったのだろう。現在の校長は、あのセブルス・スネイプだ。
「ホグワーツの校風は変わってしまいました」と製作のヘイマンは言う。「死喰い人が支配する今、彼らのルールに従わない者には容赦ない制裁が加えられるんです」
「本当に不気味な学校になってしまったよ。もはや学校というよりは刑務所に近い感じだね」とイェーツが指摘する。その不気味なムードを表現するために、監督のイェーツと撮影のエドゥアルド・セラは明快な手法を採った。「色調を変化させることにしたんだ。青や寒色が基調なんだけど、それが時間とともに黄や赤の暖色系に変わっていく。黄色や赤色は火の象徴であり、血の象徴。その二色を多用した後半は、壮大なスケールの戦争映画という雰囲気にしたかったんだ」
ネビルの案内で秘密のトンネルを抜け、ホグワーツの校内に入ったハリー、ハーマイオニー、ロンは懐かしい仲間に迎えられる。ハリーの顔を見て、ルーナ・ラブグッド(イバンナ・リンチ)、チョウ・チャン(ケイティー・ラング)、シェーマス・フィネガン(デボン・マレイ)、ディーン・トーマス(アルフィー・イーノック)は歓喜に沸き、安堵と希望の表情を浮かべる。ハリーがホグワーツに帰ってきたことによって、ダンブルドア軍団を再結成できるからだ。「ハリーの存在そのものが、みんなを元気づけるんです」と製作のバロンは言う。「強力な味方の帰還に心強さを感じるからでしょう」
だが、先に助けを求めたのはハリーのほうだった。ハリーはホグワーツのどこかに隠されている分霊箱の情報を集めようとするが、分かっているのはロウェナ・レイブンクローに関係があるということだけ。レイブンクロー組のルーナとチョウは、分霊箱の正体はロウェナの髪飾りではないかと言い出す。ふたりによると、その髪飾りはティアラの一種だが、それを見た者はこの世にいないらしい。ハリーはすぐに行動を起こそうとするが、そこへジニー・ウィーズリーが駆け込んできた。ジニーはハリーに再会した喜びを抑えながら、全員に報告する―ハリーが戻ってきたことがばれてしまった。スネイプも知っている。
ジニーにとって、憧れの先輩だったハリーは今では公認の恋人だ。ジニーを再演するボニー・ライトが話す。「再会したふたりは、お互いの心が通じ合っていることを確認するんだけれど、イチャついてる暇はないの。事態は一刻を争うわ。ジニーはハリーが背負っている責任の重さを理解しているし、そういうハリーだからこそ好きになった。だけど彼女にとってハリーは、あくまでハリー。“選ばれし者”ではけっしてないわ。ジニーを演じてきてよかったと思っているわ。内気な女の子がこんなに頼もしい女性に成長したんだもの」
スネイプは大広間に全校生徒と職員を集める。昔は温かく迎えてくれた大広間は冷たく暗い空間に変わってしまった。ごちそうが並んでいた長いテーブルも、宙に浮くキャンドルも姿を消した。にぎやかに集まってきた生徒たちも、今では組ごとに整列し、粛々と行進しながら入ってくる。しかし、その隊列のおかげで、額の傷とメガネが特徴の我らがヒーローは大広間に潜り込むことができた。
アラン・リックマン扮するスネイプは今回も謎めいた雰囲気を漂わせている。スネイプは集まった生徒たちを前に、例によって重々しい口調で警告した―ハリー・ポッターに手を貸す者は例外なく「厳しく」罰する。「アランのあの話し方、間の取り方には脱帽するね」とイェーツは感心する。「あんなにゆっくりとセリフを言える俳優にはお目にかかったことがないよ。その一言一句に、その息づかいに、ついつい聞き入ってしまう。次は何を言うんだろうとドキドキするよ」
「原作に従っているだけなんだ」とリックマンは役づくりの秘訣を明かす。「ジョーはすばらしいロードマップを提供してくれたよ。原作を読めば、スネイプの髪形や服装がイメージできる。どうやら彼は一着しか持っていないようだね(笑)。スネイプは昔から一匹狼で、声を上げることもない。それでいて一発触発の危うさを秘めているんだ」
スネイプの話が終わろうとしたそのとき、ハリーは自ら前に進み出て、スネイプと対峙する。目の前にいるのはダンブルドアを手にかけ、ぬけぬけと校長の座に就いた男だ。ハリーの捨て身の行動に仲間も教師も突き動かされる。真っ先にハリーの援護に回ったのはマクゴナガル先生とフリットウィック先生だ。そして、出入り口の近くにはリーマス・ルーピン(デイビッド・シューリス)とキングズリー・シャックルボルト(ジョージ・ハリス)が控え、ウィーズリー家の面々―母親のモリー(ジュリー・ウォルターズ)、父親のアーサー(マーク・ウィリアムズ)、双子の息子のフレッドとジョージ(ジェイムズ&オリバー・フェルプス)、長男のビル(ドムナル・グリーソン)と新妻のフラー(クレマンス・ポエジー)も戦闘態勢に入る。選ばれし者ハリー・ポッターの帰還を受けて、不死鳥の騎士団のメンバーが再び集結し、ヴォルデモート率いる闇の勢力と戦うために立ち上がったのだ。
マギー・スミス演じるミネルバ・マクゴナガルはスネイプとハリーの間に立ちはだかり、同僚のスネイプと激しく杖を交える。「マギーは世界屈指の名女優だ。セリフひとつ言わせても存在感が違う」とイェーツは絶賛する。「機会があったら、また一緒に組みたいね」
スネイプは恐れをなして退散するが、ほっとしたのもつかの間、今度はヴォルデモートの気配が校内を包み込む。開戦のときが刻一刻と迫るなか、マクゴナガルは呪文を放ってホグワーツの衛兵を招集し、城を守るように命じる。これまでホグワーツを静かに見守ってきた石の衛兵たちがマクゴナガルの魔法によって命を吹き込まれたのだ。スチュアート・クレイグ率いる美術チームが石の衛兵をデザイン、制作し、ティム・バーク率いる視覚効果チームが衛兵に動きを与えた。
さらに視覚効果チームは呪文が築いたバリケードをCGで制作。その際に参考になったのはクラゲだった。ティム・バークが話す。「クラゲは複雑な構造をしていますが、それでいて透明感があり、光を発します。そのイメージをもとにしてビジュアルを考案したんですが、生き物のような動きを出すことができました」
バリケードを設けたところで、敵の侵入をいつまでも防げるわけではない。しかし、ネビル、シェーマス、ジニーが迎撃の準備をする時間は稼げる。また、その時間を利用してハリーも分霊箱を探すことができるのだ。ヘイマンが指摘する。「残りの分霊箱が見つからなければ、ハリー側に勝機はありません」
【プロダクション・ノート】
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