司会 |
: |
3年前ハリー・ポッターを番組で取り上げた時、知る人は皆無でしたが、今では皆が知っています。ハリー・ポッターは小説に登場する魔法使いです。本は現在4巻が出版され、あと3巻が出版予定です。これまで児童文学界はもちろん、その他の文学でもハリポタ現象に匹敵するようなことが起きたことがありません。著者ジョアン・ローリングさんを紹介したのは第3巻の出版日。既に大成功の兆しが漂い始めていました。 |
|
ナレーション |
: |
36歳のジョアンローリングさんの活動拠点は…スコットランドのエディンバラです。 |
J.K.ローリング |
: |
基本的なあらすじは、ハリーは自分が有名な魔法使いだということを11歳になって初めて知り、同時に額に稲妻の傷を負った訳も知ります。そして自分のなすべきことを見出し、親の敵討ちに挑む、というものです。 |
ナレーション |
: |
ハリー・ポッターは昔ながらの話ですが、奇抜さで満ちています。ほうきにまたがった少年に郵便物を運ぶフクロウ、若い魔法使いが通うホグワ−ツ魔法魔術学校。おかしな名前は他にも沢山あります。ダンブルドア校長、闇の魔法使いヴォルデモート卿、知ったかぶりの友人ハーマイオニー。ローリングさんの言葉遊びです。 |
J.K.ローリング(薬草の本を広げながら) |
: |
以前から魔女っぽい植物の名前を集めていました。この薬草の本に出会って救われたんです。"フラックス・ウィード" "ドード・フラックス" "ガウウィード" "グロメル" "ノットグラス" "マグワード" … |
ナレーション |
: |
物語はローリングさんの空想から生まれました。
|
J.K.ローリング |
: |
登場人物をデッサンしたの。 |
司会 |
: |
あなたが?
|
J.K.ローリング |
: |
人に見せるのは初めてよ。 |
司会 |
: |
まあ!自筆でしょ!
|
|
ナレーション |
: |
挿絵に使うことも考えたという詳細なデッサンです。ハリーや意地悪ないとこのダドリー、ホグワ−ツで魔法薬を教える(注:変身術の間違い)マクゴナガル先生。こうした人物が言葉で描かれ子供たちを魅了しています。
「(本の朗読)マクゴナガル先生の試験はネズミを嗅ぎたばこ入れに変えること。美しい箱は点数が高く、ひげのはえた箱は減点された」 |
司会 |
: |
子供は夢中ですね。7〜8回読んだっていう子もいると聞いたわ。
|
|
J.K.ローリング |
: |
実際に最近会いました。サイン会にいたお母さんが「息子は汚い本にサインを頼むのが恥ずかしくて来られなかった」って言うの。本当にカバーもボロボロだったんです。それで「息子さんを呼んできて」と。そこまで読まれた自分の本を見るのが夢でした。
|
ナレーション |
: |
多くの人が背表紙を折って読んだため、彼女は作家として歴史的快挙を成し遂げました。 |
エデン・ロス・
リブソン |
: |
アメリカの児童文学界では前代未聞です。イギリスの児童文学でも同様です。
ハリー・ポッターほど短期間に頂点を極めた例はありません。(注:エデン・ロス・リブソンさんは新聞で児童書を扱っている女性) |
司会 |
: |
これまで一つも?
|
エデン・ロス・
リブソン |
: |
一つもないです。
|
司会 |
: |
ローリングさんの成功の影には、ある秘話があります。1994年にジャーナリストと離婚した彼女はエディンバラに移り住みます。友達も前途もなく、生活保護の身となり、4ヶ月の赤ちゃんのために食事も抜いていました。更に、作家を目指しながら、本は出版されませんでした。
|
J.K.ローリング |
: |
記者に「小説を紙ナプキンに書いたの?」って聞かれたわ。 |
司会 |
: |
紙も買えなかったと? |
|
J.K.ローリング |
: |
でもナプキンは行き過ぎよ。紙とペンは買えたわ。 |
司会 |
: |
でも生活保護を? |
J.K.ローリング |
: |
そうです。 |
司会 |
: |
失業手当ね。生活に困ったでしょう?
|
J.K.ローリング |
: |
最悪の状態でした。 |
ナレーション |
: |
ハリー・ポッターのアイデアは昔から膨らませていました。少女時代からいつも何か書いていたと言います。教師をしていた時もチャンスを狙っていました。 |
J.K.ローリング(書類を持って) |
: |
これは私の職歴。仕事で使う紙に書き込んだの。これは、ポルトガルでの教師時代のテキストのコピー。これを子供たちに教えないといけないのに、裏にはグリフィンドールのゴースト達が書いてあるの。
|
ナレーション |
: |
グリフィンドールとはホグワ−ツにある寮です。適当な走り書きのようですが、全て総合計画の一環なのです。本の出版前に彼女は7冊のハリー・ポッターを細かく練り上げました。各巻ともハリーの学校生活の一年間です。整頓上手かと思いきや… |
司会 |
: |
箱を持ち上げられる?これが整理? |
J.K.ローリング |
: |
寝室に置いてある膨大な箱の一つ。 |
司会 |
: |
探し物は見つかるの? |
J.K.ローリング |
: |
不思議だけど見つかるのよ。これは1番の箱。1番の箱には何が入っているのかも分かるわ。あれこれ探し始めると、「これもあった」って思い出せるの。 |
ナレーション |
: |
ノートでいっぱいの箱とそれを本にするのとは別。94年、貧しかったローリングさんはハリーを書くか忘れるかの選択を迫られます。
|
J.K.ローリング |
: |
本の出版に全力を注ぐことにしました。町を歩き回り娘が寝付くと、一番近いカフェに駆け込んで娘が起きるまで書き続けたんです。 |
ナレーション |
: |
そのほとんどはこのレストラン(注:ニコルソンズ・レストラン《旧ニコルソンズ・カフェ》のこと)でした。1杯のコーヒーで何時間も居られたからです。そしてついに原稿を送る段階になりました。 |
司会 |
: |
断られた? |
J.K.ローリング |
: |
ええ、勿論。 |
司会 |
: |
何度も? |
J.K.ローリング |
: |
確か…4社か5社でした。いつも「子供には長すぎる」と。 |
ナレーション |
: |
著作権代理人を調べ始めると、クリストファー・リトルさんが目に留まりました。 |
司会 |
: |
ある日知らない人から原稿が送られてきて、どう思いましたか?
|
クリストファー・
リトル |
: |
よくあることです。ほとんどはゴミ同然なんですが、2日経った時昼食に原稿の束を持って行きました。約束していた相手が遅れたのです。ハリー・ポッターを読み始めた私は思わず力が入りました。
|
司会 |
: |
すぐ分かったんですか? |
クリストファー・
リトル |
: |
そうです。 |
ナレーション |
: |
しかし最終的にブルームズベリー社が買い取るまで、更に数社から断られました。 |
J.K.ローリング |
: |
ブルームズベリーが買いたいと言っていると聞いた時は、娘の誕生の次に嬉しい瞬間でした。 |
司会 |
: |
これが単なる児童書に終わらないと気付いたのはいつ? |
J.K.ローリング |
: |
宣伝せずに本の売れ行きが伸びたんです。 |
司会 |
: |
宣伝なし? |
J.K.ローリング |
: |
一切なしです。子供たちの言葉が唯一の説明でした。 |
クリストファー
・リトル |
: |
初版は勿論多くありません。普通はそうです。需要の声が上がったのは子供の遊び場からでした。 |
司会 |
: |
つまり子供から子供へ口伝いに広まったと? |
クリストファー
・リトル |
: |
遊び場からね |
女の子1 |
: |
今では皆が夢中よ |
女の子2 |
: |
私のクラスで「読んでない」って言ったら… |
司会 |
: |
仲間に入れない? |
女の子2 |
: |
2日後に(その子は読んで)「面白い」って言うの。 |
ナレーション |
: |
コネチカット州のこの子供達は、ハリー・ポッターの典型的なファンです。 |
男の子1 |
: |
これまでとは違うよ。普通の本と違ってすごく空想的なんだ。それにすごく詳しいから見ているような気になるんだ。 |
女の子2 |
: |
作者の人は面白いことも書くし、同時に神秘的なことも書ける人だと思うわ。 |
ナレーション |
: |
だからこそ子供達は夢中なのです。しかし魅了されているのは子供だけではありません。イギリスでは大人向けの特別版も多数出ています。何に引き込まれるかは皆同じ。どこか見覚えのある魔法使いの世界で繰り広げられる"冒険"にです。 |
エデン・ロス
・リブソン |
: |
彼女にはもう一つの平行した世界があります。そこには銀行や新聞、魔法省まであります。ここまで完璧に揃っているからこそ、ネタが尽きることがないのです。 |
男の子2 |
: |
(学校では)普通は算数の宿題なんかが出るけど、魔術の授業なんて面白そうだよ。 |
女の子2 |
: |
あなたを絞め殺そうとする植物をどうやって殺す?とか。
|
女の子1 |
: |
秘密の魔法薬をどうするとかもね。 |
ナレーション |
: |
男女が同じ本に共感するのはハリー・ポッターならではです。出版社は初め、作者が女性であることを隠そうと、JKというイニシャルを使いました。 |
クリストファー・
リトル |
: |
女子はこだわりませんが、男子は作者が女性の本を好まないのが伝統的です。 |
ナレーション |
: |
ベールが剥がされた今、子供達は作者が書き続ける限り気にしません。 |
司会 |
: |
これまで読書とは縁遠かった子供達までも魅了して、単にこのシリーズを読ませるだけでなく他の本にも興味を湧かせました。 |
J.K.ローリング |
: |
最高ね。 |
司会 |
: |
そう聞いたことは? |
J.K.ローリング |
: |
よく言われます。失読症の子を持つ母親二人に会い、子供達自身で本を読破したと聞きました。9歳の男の子は「ハリー・ポッターと賢者の石」が初めて自分で読んだ本だそうです。
|
J.K.ローリング(朗読会で) |
: |
(朗読)「あなたは恐ろしい敵をお持ちね。ハーマイオニーが聞こえよがしに囁いた。。」 |
ナレーション |
: |
ローリングさんは子供たちに読み聞かせたり、質疑応答を楽しみます。これはエディンバラでの集会です。 |
子供1 |
: |
自分を元にした登場人物は誰ですか? |
J.K.ローリング |
: |
私に?自慢できないけどハーマイオニーかしら(頭を掻きながら)…。 |
会場の子供達 |
: |
笑う |
J.K.ローリング |
: |
彼女は堅物でしょ。私も11歳の頃そうでした。そのうちハーマイオニーも温厚になるわ! |
司会 |
: |
普通、続編はまとまらないですよね。 |
J.K.ローリング |
: |
続編とは考えていません。超大作の小説を読みやすいように7冊に分けたんです。 |
ナレーション |
: |
エディンバラのカフェの片隅で邪魔されずに座り、静かにシリーズを書き上げたいであろうローリングさん。しかし有名になった今、それは困難に。更にビジネスに利用しようという圧力も。 |
クリストファー・
リトル |
: |
1日に100件を超える問い合わせがあります。ソニーやマイクロソフト…、ティーカップの製造業者。。 |
J.K.ローリング |
: |
もし最初に宣伝広告やその他、馬鹿げたものにハリーを使うと分かっていたら、全て断っていたわ。 |
司会 |
: |
具体的に教えて。 |
J.K.ローリング |
: |
(頭を抱えて)マーガリンとか |
司会 |
: |
(身を乗り出して)マーガリン?本当? |
J.K.ローリング |
: |
本当よ、どうしてなの!? |
ナレーション |
: |
今やハリー・ポッターは彼女の物ではありません。彼女はワーナーに映画化の権利とそれに伴う全権を売りました。 |
司会 |
: |
これからテレビやアクション・フィギュアも…。
|
J.K.ローリング |
: |
テレビ(番組)は作られるかしら? |
司会 |
: |
でも可能性はあるでしょう? アクション・フィギュアも? |
J.K.ローリング |
: |
アクション・フィギュアねぇ(顔をしかめる)。 |
司会 |
: |
呼び方はともかく…。 |
J.K.ローリング |
: |
私は母親よ、、アクション・フィギュアは嫌い(言ってから口を手で押さえる)。 |
司会 |
: |
じゃあ何て呼びましょうか?人形? |
J.K.ローリング |
: |
もしお粗末なフィギュアだったら皆さん買わなくて良いわ!ワーナー、許して! |
司会 |
: |
ワーナーはフィギュアの売れ行きに心配要りません。映画は2001年のクリスマスにヒットし、この年最も成功した映画となりました。ローリングさんは第5巻を執筆中、そして最近結婚もしました。相手は魔法使いではなくスコットランド人医師です。(番組終了) |
|