(第1部:物語誕生秘話)
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本の朗読
(スティーブン・フライ)
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この子は有名になり小説になるでしょう。今日は「ハリー・ポッターの日」になるかも知れない。ハリーの本が何冊も書かれ魔法界中の子供たちがハリーの名を知るでしょう。
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ナレーション |
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この言葉を書き記した時、ハリー・ポッターシリーズの著者、JKローリングは、それが現実になろうとは夢にも思いませんでした。1997年に「ハリー・ポッターと賢者の石」が発売されて以来、売上部数は1億3千500万部以上、翻訳された言語は48ヶ国語。 これを上回るのは聖書だけです。そして今も30秒に1人がハリーの世界に足を踏み入れています。
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J.K.ローリング |
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こうなると分っていたらとても正気でいられなかったわ。誰一人、私ですら想像ができなかったのです。
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(タイトル)
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J.K.ローリング ハリー・ポッターはこうして生まれた
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ナレーション |
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お金も仕事もなく、娘を連れてコーヒーショップでただひたすら物語を書く、それが、ほんの数年前のJ.K.ローリングの姿でした。その彼女が今や、世界で最も有名な児童文学作家となり、富と名声を得たのです。4冊のハリーポッターシリーズは世界的なベストセラーになり 映画は大ヒット。多くのファンがハリーの次の冒険を待ちわびています。この驚くべき成功について著者JKローリングが初めて自分の言葉で語りました。
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J.K.ローリング |
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つまらない事を書かれたわ。全部が悪意のあるものではなかったけど、大げさに書かれたり、事実を歪められたりね。でもいつか自分の口から真実を語る時が来るって、そう思っていたわ。あとはそれを人が信じるかどうかだって。それで少なくとも私は心安らかに眠れるのです。
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ナレーション |
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魔法使いの少年ハリーの物語は、赤ん坊の頃に親戚のダーズリー家に預けられる所から始まります。ハリーはごく普通の男の子として成長します。しかしある時、自分が魔法界では伝説的な存在であり、ホグワーツ魔法魔術学校に入学する運命にあることを知るのです。ハリーはクラスメートのロンやハーマイオニーとともに、魔法界の闇の力と戦います。物語はハリーが1学年進級するごとに1巻という形で進められ、7巻で完結する事になっています。このシリーズの誕生は、1990年にさかのぼります。
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J.K.ローリング |
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マンチェスターから、ロンドン行きの列車に乗っていました。ただのんびりとね。でも、その時ふと、アイデアが浮かんだのです。ハリーの姿が、はっきりと見えました。痩せっぽちの少年の姿が。体が震えるほど興奮しました。書くことに関してあんなに興奮した事は、なかったわ。じっとしていられない程のアイデアだったの。何か書くものを探そうと、鞄を引っ掻き回したんだけど、アイライナーさえ持ってなかった。だから考えるしかなかったの。列車が遅れた4時間の間に、次から次へとアイデアが浮かびました。
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本の朗読 |
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(1巻1章の部分の朗読) |
J.K.ローリング
(列車の中)
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物語を書かない人にあの興奮を説明するのは、ちょっと無理だと思うわ。恋に落ちる運命にある人と出会った瞬間に感じるような、そんな高揚感に包まれた感じ。列車を下りた時はそう、まるで素晴らしい恋愛を始める素敵な人とめぐり合った、そんな気分でしたね。ウキウキとした、胸が高鳴るような興奮でした。アパートに戻って直ぐに原稿を書き始めてもう10年も続いているのだから、幸福な恋愛関係といえるでしょうね。 |
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J.K.ローリング
(キングズ・クロス駅)
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私にとってキングズ・クロス駅は、とてもロマンチックな場所なのです。両親がここで出会ったからなのですけどね。両親は二人とも海軍に入って、スコットランドに向かう所でした。二人は駅を出発した列車の中で出会ったのです。だからハリーには、汽車でホグワーツ魔法魔術学校に行って欲しかった。私は汽車が大好きなの。 |
映画のシーン |
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キングズ・クロス駅 |
J.K.ローリング |
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これは、ハリー・ポッター・シリーズ特有のひねりです。魔法界への入口は、簡単に時空を越えるようなものにはしたくなかったのです。知識さえあれば、見つかる場所にしたかった。それで、自信を持って壁に走りこめばちゃんと入れるようにしたのです。
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映画のシーン |
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9と3/4番線に思い切って入るシーン |
J.K.ローリング |
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九と四分の3番ホームの事は、マンチェスターにいる時に書いたの。だから、プラットフォームのイメージが違ってしまいました。あれは、ユーストン駅の事を思い描いていたのです。実際にキングズ・クロス駅の9番ホームや10番ホームに行くと、本に書かれているイメージと余り似ていないことに気づかれるでしょう。マンチェスターにいたから、チェックできなかったの。 |
J.K.ローリング
(自宅)
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アイデアを閃いた時から本を書き上げるまで、5年かかりました。その5年の間に物語の肉となる、膨大な素材が生まれました。全てが本に書かれるわけではありません。『私だけが知っている』というのが楽しいのです。私はそういう本が好きです。作者は全てを語ってはいないけど、本当は全てを知っているのだと確信できる本が、大好きなんです。 |
J.K.ローリング
(部屋に座って)
この場面の写真はこちら
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さて、これは何も知らない人には、ただの紙くずの山に見えるでしょうが、私の10年に及ぶ仕事の成果です。どんな小さなメモも、私には価値あるものです。これは第1巻の第1章です。15通りも書いていたわ。ボツにした理由は、余りに詳しく書いてしまったから。この第1章を上手く組み立てれば、全体のストーリーが殆ど説明できてしまうのです。この古いノートもそう。これも。余り見せたくないわ。これから登場するキャラクターなのよ。ポルトガル時代の日記は…あった。これがポルトガルにいた頃の日記です。ご覧のように真っ白ね。私は日記を毎日続けて書いた事が無いんです。でもここにも第1巻の第1章が書いてある。
絵も沢山描いたわ。イメージを明確にするためにね。これはアーガス・フィルチ、こっちは勿論スネイプ、これは、ハリーがプリベット通りに到着した時の様子。おなじみの3人がいるわ。これはグリンゴッツのトロッコ。みぞの鏡でしょ。ウィーズリー兄弟。スプラウト先生。そしてお気に入りの一枚。これはなくしたと思っていたの。映画監督のクリス・コロンバスに見せるはずだったのに、今頃見つかるなんて。これが私がイメージした、ダイアゴン横丁の入口の開き方です。この絵があったって言ったら、クリスが怒るでしょうね。すごく見たがっていたから。 |
映画のシーン |
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ダイアゴン横丁が開くシーン |
J.K.ローリング |
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物語を書く作業はこのメモの塊で彫刻を作るようなものでした。実際そうだったのです。書き溜めたメモを凝縮し編集し形を整えて1冊の本に仕上げていきました。マニアが喜ぶ本になるだろうなって思ってました。ディテールを楽しむ人たちのための本になるって。だって私はこの本にあらゆるディテールを詰め込んだのですから。 |
(第2部:波乱に満ちた人生) |
ナレーション |
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ハリー・ポッターの物語をつむぎながら、J.K.ローリングは波乱に満ちた人生を送っていました。ポルトガルで英語教師の職につき、結婚、出産、そして離婚。1993年にエディンバラにたどり着いたとき、彼女の生活はひっ迫していました。 |
J.K.ローリング |
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無一文のシングルマザー、そういうレッテルを貼られました。事実でしたけど、マスコミはそれでも物足りなかったみたい。書く紙も買えなくて紙ナプキンに書いたとか、面白おかしく書き立てられました。誇張して書くのはやめてもらいたいわ。しもしないことを書く必要は無いのよ、現実そのものが十分ひどかったんだから。 |
J.K.ローリング
(アパートの前)
写真はこちら
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この建物に入るのは1994年に引越して以来はじめて。戻って来たくはなかったの、この場所に罪はないけど、避けていました。ここにいた半年間はひどく不幸だったわ。でもここでは沢山書きました。第一巻が本になった場所は、ここだと言ってもいいでしょう。入ってみましょうか。行きましょう。当時を思い出してしまうから、冷静には見られないと思うわ。あの頃、私は28歳で生活保護を受け、一週間70ポンド程度で暮らしていました。仕事も無く、自分一人でさえ養えなかった。公立の託児所を利用できる人はラッキーです。パートタイムでもとにかく働けるんですから。私はそれもできなかった。 |
J.K.ローリング
(アパートの部屋に入る)
写真はこちら
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: |
あらまあ、これは、ずいぶん変わったわ。すごいわね。ホントに何ていうか、私が住んでいた頃とは大違い。素敵だわ。ホントに素敵になって私も嬉しいです。引越すとそこでの時間って止ってしまうものでしょう。私もバスやタクシーで前を通りかかるたびに、ここはあの頃と何も変わっていないだろうって思っていたんです。この部屋だったら楽しかったでしょうね。この変わり様、悪魔払いでもしたみたい。 |
J.K.ローリング
(自宅で)
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第三巻に出てくるディメンターはこの頃の記憶から生まれたんでしょう。彼らは絶望をあらわしています。私が書いた中で一番恐ろしいものだと思います。絶望は恐ろしいものです。私も絶望していた。でも、心底絶望していたら、書き続けることは出来なかったでしょう。私はまだそれほどひどくなかったのだと思います。時々書く気力がわかなくて、書けなくなったらどうしようって落ち込むこともありました。書くことが生活のすべてでしたからね。
有名になったあのカフェでずっと書いていました。そう、一度きちんと言ってもいいかしら。いい加減な事を書かれて本当イライラしているのよ。私がカフェで書いていたのは部屋に暖房が無かったからじゃないわ。真冬のエディンバラで暖房の無いアパートを借りるほど私は間抜けじゃないの。娘のジェシカを眠らせるにはベビーカーに乗せて外を歩くのが一番で、それで娘を遊ばせて眠ったら、カフェに駆け込んで書いたのです。
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J.K.ローリング
(ニコルソンズ・
カフェで)
写真はこちら |
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書く手を休めて顔を上げると、人や車が行き交う街が見えて素敵でした。長時間いられたのは、義理の弟が経営者の一人だったからでしょう。本が売れたら店を宣伝するわってよく言ってたの。でもそれは冗談で、誰も実現するなんて思ってなかった。出版のあてがなくても書き続けられたのは、心からこの物語を信じていたからだと思います。また、最高の作品にしたいという思いがありました。でも、頭には現実的な問題がありました。無名の作家が本を出版するまでには相当な苦労が強いられます。自分では傑作だと思っても、他人が気に入ってくれるとは限りませんから。
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ナレーション |
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J.K.ローリングは著作権代理人と契約しました。しかし、どの出版社も、ハリーには目もくれませんでした。
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著作権代理人クリストファー・リトル
写真
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ハリー・ポッターは売るのがとても難しい作品だったのです。多くの出版社が原稿を送り返してきました。話が長すぎるし、寄宿学校に入る子供の話なんて古いっていうことでね。 |
ブルームズベリー社元編集者バリー・カニンガム |
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ハリーを送り返したことを、今はどの出版社も否定しています。自分たちが犯した過ちから、距離をおきたいんでしょう。 |
J.K.ローリング |
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その出版社がどこか知りたい?でもここで言うのは良いことじゃないわ(笑)。 |
代理人 |
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大手は全部ですよ。 |
J.K.ローリング |
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代理人のクリストファーにも言われたわ。本業の教師を続けた方が良いって。 |
代理人 |
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児童文学はいくらも稼げないんです。 |
J.K.ローリング |
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とても言いにくそうにこう言ったのよ。もちろん僕はこの本を気に入ってる。でも、そんなに儲からないよ(笑)。 |
ナレーション |
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結局ハリー・ポッターは、1997年、ブルームズベリー社から出版されることになりました。現代文学の一大現象となるこの本を、この出版社はわずか2500ポンドで獲得したのです。 |
J.K.ローリング |
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私の人生で、娘の誕生の次に素晴らしい瞬間でした。クリストファーが電話をかけてきて、「実はね」って言ったんです。 |
代理人 |
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彼女はしばらく無言でしたね。そして突然、金切り声を上げたんです。 |
J.K.ローリング |
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大丈夫かって聞かれたわ。ずっと抱きつづけてきた夢が叶ったんですからね。ホントに、なんていうか、最高の瞬間でした。あれほど嬉しいことはありません。 |
ナレーション |
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ホグワーツ魔法魔術学校に入学したハリーは、自分が伝説的な存在であることに気づきます。両親を殺した邪悪な魔法使い、ヴォルデモートの攻撃から奇跡的に生き残ったことで、その名が知られていたのです。両親の顔を知らずに育ったハリーは、ホグワーツでの冒険を通じて自分が何物であるかを解き明かしていきます。 |
映画のシーン |
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組分け帽子のシーン |
J.K.ローリング |
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学校に着いたばかりのハリーは不安で一杯でした。私たち大人だってはじめての場所ではそうですよね。でもハリーは特別な存在だったため、更に不安が大きくなってしまうんです。助かるはずの無い攻撃から生き延びたという奇妙な運命のためにね。 |
俳優でハリポタ朗読本の声のスティーブン・フライ
写真 |
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ハリー・ポッターで私が気に入っているのは、物事が渾然一体となっているところです。着想が現実的で、ファンタジーという言葉ではくくれない、その現実味に惹かれるんです。この本にはイギリスの魔術に関する伝説が織り込まれています。J.K.ローリングは魔法の世界をディズニーのような、夢がかなう素敵な世界といった単純なものにはしていません。ハリー・ポッターにはイギリスの歴史と神話や伝承などが織り込まれています。高尚な文芸作品だとは言いませんよ。でも、作り物っぽくない。子供だましのファンタジーだったらこんなにはヒットしなかったでしょう。 |
J.K.ローリング |
: |
魔法は永遠の魅力です。魔法を書いた本は決してなくなることはないでしょう。魔法は世界中のありとあらゆる社会に存在していました。現代のような知識がある時代でさえ、この世界に何か影響を与えることが出来るという考えは、非常に魅力的です。魔法使いになって世界を思いのままにするという夢は、子供だけでなく大人をも惹きつけるんです。 |
本の朗読(スティーブン・フライ) |
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第一巻スネイプの初授業 |
J.K.ローリング |
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あいつは魔女だとイヤというほど言われ続けてきました。でも私は魔術を信じていないし、作品中の魔法の95パーセントが私の発案によるものです。民間に伝わる、人々が魔法だと信じてきたものを素材にして、目的に合わせてひねりを加えました。ストーリーに合うように伝説を好き勝手に作り変えたんです。魔法使いの話は児童文学の大きな位置を占め、今後もなくなることはないでしょう。100年経っても200年経ってもね。 |
ナレーション |
: |
1997年、J.K.ローリングは第二巻「ハリー・ポッターと秘密の部屋」に着手していました。第一巻は好評でしたが、今日のようなブームにはならず、彼女は教師として生計を立てていました。ところが、彼女の環境を一変させる出来事が起こります。アメリカの出版社がハリーの版権を高値で競り落としたのです。J.K.ローリングはアメリカのスカラスティック社と契約し、長年の夢であった専業作家になりました。 |
(第3部:子供時代) |
J.K.ローリング
子供の頃の写真
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: |
本は人間の手によって書かれるもので、どこからとも無く自然に生まれてくるものではない、そう悟った瞬間から、私はずっと作家になりたいと思い続けてきました。私にとっては至極当たり前のことです。作家になりたいと思わない人がいるなんて理解できないわ。作家より良いものなんて、他にある? |
J.K.ローリング
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: |
子供の頃の感覚を思い出せない人に子供向けの本は書けません。そういう意味で、私には児童文学を書く資格があると思います。子供時代を鮮明に覚えていますから。 |
ナレーション |
: |
J.K.ローリングの子供時代の記憶は、作品に大きな影響を与えました。J.K.ローリングは1965年、ブリストル近郊の町チッピング・ソドベリーに生まれました。本が大好きでちょっと威張った少女だったと言います。まるでハーマイオニーのように。 |
映画のシーン |
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「ウィンガーディアム・レビオーサ」の場面 |
J.K.ローリング |
: |
ハーマイオニーのこととなると、スラスラ書けるんです。彼女は私なのね。
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映画のシーン |
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「ウィンガーディアム・レビオーサ」の場面の続き |
J.K.ローリング |
: |
私はガリ勉タイプで、物事をきっちりこなすことで、自信の無さを打ち消そうとする子でした。ハーマイオニーのように、偽りの自信を見せつけて、それが人を不快にさせることも判っていました。いつも自分に満足できずにいたんです。だから私は、ハーマイオニーを理解できるんです。 |
ナレーション |
: |
幼い頃から書くことが大好きだった少女は、6歳で最初の物語を書き上げました。 |
J.K.ローリング |
: |
初めて書き上げたのは、うさぎの物語でした。タイトルは「うさぎ」です。 |
タッツヒル小学校に向かうJ.K.ローリング
写真 |
教師(タッツヒル小学校) |
: |
ハリー・ポッターを読んだことがある人は?こんなに?今朝は、この学校に特別なお客様をお招きしました。J.K.ローリングさんです。お話を聞きましょうね。 |
J.K.ローリング
写真
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: |
(子供に挨拶しながらローリングさん入場)こんにちは。(子供をよけながら)踏んだら大変。動かないでね。こんにちは。元気?とっても不思議な気分です。ここは私の母校なのよ。素晴らしいことだわ。 |
J.K.ローリング |
: |
私の本を読んでくれる子供たちに会う。これほど楽しいことはありません。ハリー・ポッターが子供たちの読書を始めるきっかけになったと考えると本当に嬉しいです。沢山の子供達がハリーによって読書の楽しみを知った、と言ってくれたんですよ。 |
生徒 |
: |
作家の卵にアドバイスは? |
J.K.ローリング |
: |
作家志望なの? |
生徒 |
: |
(うなずく) |
J.K.ローリング |
: |
たぶんね、沢山本を読む。読めば読むほどいいわ。自分の好みが分かるし、言葉も覚える。あとは気に入らなくても書き続けるの。じきに上達するわ。紙を無駄にするから、環境には悪いけどね。 |
生徒 |
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どの寮に入りたい? |
J.K.ローリング |
: |
絶対グリフィンドールね。だからハリーもそこにしたの。
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ローリングと友人のショーン・ハリスが歩きながら
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J.K.ローリング |
: |
ショーンと出会ったのは17、8の頃です。彼との友情は私の人生に欠かすことが出来ません。私たちは同じ境遇にあった。だから親しくなったんでしょう。転校生だったし、地元のしゃべり方と違っていた。自分たちはよそ者だと感じていて、それが強い絆になったのでしょう。 |
J.K.ローリング
写真
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: |
これがショーンです。ハリー・ポッターの第二巻は彼にささげました。ロンの生みの親ね。 |
映画のシーン |
: |
ロンが透明マントに驚く場面 |
J.K.ローリング |
: |
モデルではないけど、ロンの話し方は彼に似てるわ。 |
映画のシーン |
: |
ロンとハリーがマクゴナガル教授の授業に遅刻する場面(「マジでスゴイ!」) |
ショーン・ハリス |
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ロンと似ている部分があるとすれば、そうだな、優等生タイプじゃないってとこかな。 |
J.K.ローリング |
: |
というか---、 |
ショーン |
: |
何か? |
J.K.ローリング |
: |
ごめんなさい、どうぞ。 |
ショーン |
: |
学校の成績でいうと、彼女は間違いなく優等生でしたよ。僕はいつも彼女をあてにしていた。時々作文を借りたりしてねェ。とにかく僕はロンみたいな人間じゃなかった。ロンは僕なんかとは違う、とても、気の良い奴だよ。 |
J.K.ローリング |
: |
必要な時、そばにいてくれるの。 |
ナレーション
写真
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: |
その後J.K.ローリングはエクスター大学に進学、フランス語と古典学の学位を取ってロンドンに移りました。そして、悲劇が訪れます。10年間、多発性硬化症という病気と戦っていた母親のアンが、帰らぬ人となったのです。 |
J.K.ローリング |
: |
余りに突然でした。母は45歳という若さで亡くなったんです。家族を残して死ぬには、若すぎる年齢です。まだこれからという時だったのに、こんなことになるなんて。読書好きの母は娘が作家になったと知ったら、名誉なことだととても喜んだでしょう。でもそれを知ることはありませんでした。このことが、今も私の胸をチクリと刺すのです。 |
J.K.ローリング |
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母の死から2、3日後、ハリー・ポッターの両親を、残酷な方法で死なせるというアイディアが浮かびました。残酷な描写はしていません。淡々とした表現にとどめ、詳しく説明しませんでした。まだ死について深くは論じていないのです。母が亡くなったのは、第一章を書き始めてから半年も後でした。でも母の死によって、私は自分の物語のなかに、死というものを抱えて生きることになったのです。みぞの鏡は、私自身の経験から生まれたものです。お願い神様、あと5分だけ、もっと欲しいけど…… |
映画のシーン |
: |
ハリーが、みぞの鏡を覗き込む場面 |
J.K.ローリング |
: |
5分あったら、ママには孫がいるのよって、娘のジェシーのことを話すわ、本のこともね。それで、死がどういうものか聞きそびれるの。。一番重要な質問なのに。。 |
映画のシーン |
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クィレル先生とハリーのラストシーン |
J.K.ローリング |
: |
死は、ハリー・ポッター・シリーズの最も重要なテーマです。悪について書こうとするなら、真の悪は人の命をも奪うということを見せなければならないのです。これからもっと沢山の人が死にます。書くのも恐ろしいような死が、いえ、実際にもう書いてしまいましたけども、少なくとも一つはあります。でもこれはどうしても、必要なの。 |
ナレーション |
: |
物語の闇の部分を子供たちは理解できるか、疑問を抱く親もいました。 |
J.K.ローリング |
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親の論理とは面白いものです。あなたは私の子供が読む本を書いている。だから私は、あなたに指図する権利がある。実際第2巻のことで、ある母親からひどい手紙を貰いました。この本の終わり方には困惑しました。あなたなら、次の本はもっと良い終わり方に出来るでしょう、もし今後もこのテーマでお書きになるのなら、もうあなたの本は受け入れられないと言わねばなりません。ここで私は手紙を読むのをやめ、「シリーズの残りは読まないで下さい」と返事を書きました。指図を受ける義務はありません。私は読者のことを深く考えています。でも、私が書くものについて、一言だって指図されるつもりはありません。物語の支配者は、私です。誰かの子供のために書いているわけではありません。 |
スティーブン・
フライ |
: |
J.K.ローリングはタフな作家です。たとえ子供たちが怖がっても、妥協したりはしません。子供たちに悪夢を見せるのも、文学の役割の一つです。はしかにかからせるようなものです。悪夢を見ることなく、未知ものに対する恐怖を経験しないまま大人になってしまったら、それこそ大変なことになります。文学は、子供たちのために早めに恐怖を体験させているわけです。 |
ハロウィーン・パーティの子供 |
: |
ベッドで読んでいると、ヴォルデモートが現われて怖かった。布団の中で震えていたわ。ものすごく怖かった |
ハロウィーンパーティの子供 |
: |
緊張するよね |
ハロウィーン・パーティの子供 |
: |
パパが来て言うのよ。『読むのはやめてそろそろ寝なさい』って。『次の章まで』ってお願いするの |
ハロウィーン・パーティの子供 |
: |
大人もハマってるのがいいな |
ハロウィーン・パーティの子供 |
: |
どう思ってるんだろ? |
ハロウィーン・パーティの子供 |
: |
皆 面白いと思ってるよ |
作家フィリップ・プルマン |
: |
児童文学は、一般に軽く見られがちです。子供が喜ぶ程度の、たわいの無いことしか書いてないんだろうってね。これは大きな間違いです。実際はその逆で、大人の本のほうが些細な問題をテーマにしているのです。恋がどうしたとか、サッカーチームがどうしたとか。その点、児童文学は究極の問題を扱っています。人間とは何か、私たちはどのように生きるべきか。非常に重要なテーマです。こうした問題の多くは大人の本ではなく、児童文学で扱われているのです。 |
(第4部:3巻発売から今後のストーリーまで) |
ナレーション |
: |
1999年、第三巻「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」が発売されると、J.K.ローリングは国際的なスーパースターとなりました。ニューヨーク・タイムズのベストセラー1位から3位までを独占。サイン会はポップコンサート並みの盛り上がりをみせます。 |
J.K.ローリング
(列車の中) |
: |
多分何万冊という本にサインしたと思うわ。サインしていない最後の一冊を残すために、どうかサインをもらわないでって言いたくなります。私が触っていない本として価値が出るかもね。いろいろな国のハリー・ポッターを見て、ハリーの解釈が違うことに驚きます。このイタリア語版なんか面白いの。ごく初期の頃、出版社が勝手にハリーのメガネをはずしてしまったのです。メガネをかけていたらヒーローになれないって言うのかしら。 |
ナレーション |
: |
2000年夏、ハリーポッターブームは最高潮に達しようとしていました。第四巻「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」は、7月8日の午前零時に発売。予約した何千人というマニアたちが書店の入口に列をなしました。 |
書店の店員 |
: |
(本の後ろをめくる男の子に向かって)終わりから読んじゃダメよ。 |
少女 |
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こんな始まり方だなんて信じられない! |
ナレーション
写真 |
: |
トロントでは、史上最大の朗読会に1万2千人のファンが詰め掛け、J.K.ローリングを戸惑わせます。 |
J.K.ローリング |
: |
人前で上手く喋れた試しがないの。私は対人恐怖症一歩手前なんです。それなのに…… |
映像
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: |
歓声の中、JKRの入場シーン |
J.K.ローリング |
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私は人前に出る仕事には向いていないと痛いほど感じましたね。憐れなほど震えちゃって、耳栓までして歓声が聞こえないようにしていたのよ。
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J.K.ローリング(朗読会の会場) |
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おはよう。ここに来られて嬉しいけど、正直言って怖いわ。
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J.K.ローリング(自宅で回想し乍ら) |
: |
朗読を始めればもう大丈夫。 |
J.K.ローリング(朗読を始める) |
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ダドリーはお尻を手でおさえ、コワゴワ…… |
J.K.ローリング(自宅で回想し乍ら) |
: |
朗読を終えると、ありがとうとか何とか言って、最後にどう聞こえるのかと耳栓を一つはずしたんです。鼓膜が破れるかと思ったわ。聞いたことのないような、すごい歓声が聞こえたのです。皮肉ですよね。私は、五年間ハリーという一人の少年を通じて、突然有名になるとはどういうことだろうと想像してきました。それが我が身に起きるとは。私は、無名の存在から有名になるということを、身をもって知りました。 |
J.K.ローリング |
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仕事と全く関係の無い部分をあれこれ詮索されるのは不快です。私にはハリー・ポッターの著者以外の顔もあるのです。名乗りもしないマスコミが父を追い掛け回すのには怒りを覚えます。彼らはこの犯罪行為を償うべきです。お嬢さんがあなた嫌う理由は何でしょう、なんていう質問を浴びせかけるのですよ。父はショックだったでしょうね。それで電話を取り外しました。ホント腹が立つわ。 |
ナレーション |
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問題はこれだけではありません。オカルト的な思想を植えつけたとして、彼女はいくつかのキリスト教団体から魔女狩りの標的にされました。アメリカではハリーの本を禁止する学校もありました。
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教会関係者? |
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魔術信仰を助長する本と見なします |
信者? |
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泣きながら祈りましたよ。子供たちの心が汚されるのですから…… |
J.K.ローリング |
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大騒ぎしている人たちに、それは真実ではないって言ってやりたいわ。私のところに来て、オカルトに人生を捧げますなんて言った子は一人もいません。大人は子供を見くびり過ぎている。子供はハリーがフィクションであることをちゃんと理解しています。理性を失っているのは大人たちの方です。私の本を少しでも読めば分かるはずだと思いますけどね。 |
ナレーション(映画のプレミアの映像) |
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J.K.ローリングの成功に影を落とすものは、何もありませんでした。しかし、華々しく封切られた映画は、彼女にとっては不安の種だったようです。 |
J.K.ローリング |
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実は上映が近づくにつれて、不安が増していました。実際に出来上がった映画を見るまで、怖くて仕方なかったのです。内容を変えられていたらどうしよう。それだけはしないでって。見終わってほっとしました。とても気に入りました。 |
ナレーション |
: |
J.K.ローリングは今、第五巻の執筆にかかっています。世界中のファンがその完成を待ちわびているのです。 |
J.K.ローリング |
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楽しんで書いています。第五巻でハリーは行ったことの無い場所へ行くんです。彼らは15歳になって、異性を意識するようになります。そしてハリーはいくつか質問をするのです。なぜ今までその質問をしなかったのか、読者もハッとするような質問です。ハリーは自分の過去について、更に多くを見出すでしょう。 |
ナレーション |
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彼女は既にすべての結末を書き上げています。もう謎は解明されているのです。 |
J.K.ローリング
写真はこちら
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これはお見せするべきか迷ったのです。中が見えたら大変ですから。そう、これは第七巻の最終章です。カメラに透視する機能がついてたらどうしましょう(笑)。とにかく、当然ですが中は見せられません。この中に物語のすべての結末が隠されています。学校を卒業した後、登場人物たちがどうなるか、誰が生き残るかが書かれています。死ぬ人もいます。寂しいけど、いつかは最終章に、終わりにたどり着くのです。それでも見たいというのなら、言っておくわ。これはもうクローゼットの中には置きません! だからウチに忍び込んでもダメ。物語の結末はあなたの知らない所にあるのです。 |
第2部〜第4部は、匿名ご希望の方が書き起して下さった文章を
使用しました。どうも有難うございました!! |