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【対談】人・創造活動と社会貢献
個人として、企業として私たちにできる社会貢献とは何でしょう?すぐに始められることは沢山あります。例えば「ハリー・ポッター特別基金」。ハリー・ポッターの世界から生まれた本「ホグワーツ校指定教科書」のTとUは、定価の70%がイギリスの慈善団体に寄付され、途上国の子供たちのために使われます。作者・出版社・書店・読者が一体となった新しい社会貢献の姿を、キャスターの鳥越俊太郎さんと、ハリー・ポッターの翻訳者で出版社社長の松岡佑子さんに語り合って頂きました。
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★これまで本を読まなかった子どもにも読まれている |
鳥越 |
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ハリー・ポッターはすごい人気ですね。同時多発テロの後、一般に本が売れなくなっているという事ですが....。日本語版はどの位読まれているのですか? |
松岡 |
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3巻まで出ていて、累計で1000万部を突破しました。15万通もの愛読者カードを見ると、主人公ハリーぐらいのお子さんが多いですね。「厚い本を読むと頭が痛くなるけれど、これだけは読みました」というような手紙がたくさん届いています。
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鳥越 |
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今、本や新聞を読まない子どもが多い。そういう中で、沢山の子が活字に親しんでくれたのは嬉しいですね。人間の脳の発達には”抽象化する”という作業が重要です。例えば「愛」という文字を見て、脳の中で変換キーを押して、愛というものを思い出す。テレビは一方的に情報が入ってくるから、この作業がいらないんですよ。この作業をやらないでいると、脳の成長にはずいぶん違いが出てくると思う。だから、子どもの時に本を読む習慣は大切だと思いますね。 |
松岡 |
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そういう意味で社会に貢献できたらうれしいです。 |
★国際ボランティアのために作者が書いたステキな本 |
鳥越 |
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この「ホグワーツ校指定教科書」はどういう経緯で生まれたんですか? |
松岡 |
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イギリスに「コミック・リリーフ」という慈善団体があるんです。スタッフ全員がボランティアで、事務所経費は別の寄付でまかなう。ですから、団体への寄付は全額、所定の目的の為だけに使われます。「ハリー・ポッター」の原作者であるJ.K.ローリングも、この精神が気に入って、物語の中の世界から2冊の本の著作権を寄付しました。それが「幻の動物とその生息地」と「クィディッチ今昔」です。彼女はシングルマザーで、生活保護を受けながら「ハリー・ポッター」を書いたんです。それで、本を読んでくれた子どもたちのために何か貢献したい、と思ったのでしょうね。 |
鳥越 |
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「コミック・リリーフ」の活動を支援しようと、この2冊が書かれたわけですね。 |
松岡 |
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はい。翻訳出版権は「ハリー・ポッター」の出版社が優先されました。ただし、条件として寄付をしてほしいと。イギリスやアメリカ、翻訳が必要なドイツでも定価の80%寄付を明記しています。日本が20〜30%の寄付では恥ずかしいなと。それで、赤字覚悟で定価の70%寄付を打ち出したんです。ただ、通常の流通方法では無理ですから、書店さんに頼み込んで、買い取りで直接卸しています。 |
鳥越 |
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え、直ですか。それで、どの位売れているんですか? |
松岡 |
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2冊で今43万部ぐらいです。定価900円のうちの630円分が寄付されますから、合計は2億7千万円ほどになります。 |
鳥越 |
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自力で43万部というのはすごい。寄付金額も大きい。 |
松岡 |
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まとまった数で買い取ってくださった書店さんの協力には、本当に感謝しています。数人しかいない静山社のスタッフ全員が、箱に詰め込む作業や書店さんとの契約を頑張ってくれました。 |
鳥越 |
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それで集まった寄付を、「コミック・リリーフ」ではどんな目的で使うんですか。 |
松岡 |
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イギリスとアメリカで計1000万部以上の売上が見込まれていますが、今回は「ハリー・ポッター特別基金」が設けられて。海外からの寄付は全てこの基金に入り、主にアフリカなど、途上国の貧しい子供たちのために使われます。ただ、日本では、外国の慈善団体への寄付の免税措置がないんです。 |
鳥越 |
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売上に対して税金がかかるから、赤字になっちゃいますよね。それが問題だ。寄付行為の解釈と適応が欧米とは違うんですよね。日本の税制などを考えると、7割寄付というのは、無謀に近い。 |
松岡 |
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確かにそうです。せめて海外で慈善団体として登録されている所に対しては非課税にしてほしいと思います。 |
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★与えることには歓びがある。自分にできることをする。 |
鳥越 |
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翻訳料も取られなかったとか。印刷や製本、装丁の費用はどうされたんですか? |
松岡 |
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本当に安くしてもらいました。お金が払えないにもかかわらず助けてくれた友達がたくさんいて。ハリー・ポッターの本体でも同じなのです。本を紹介してくれて、挿絵を描いてくれた友人も、第1巻が出る前に、自分の貯金を使ってくれ、とまで言ってくれました。「教科書」の中のハリーやハーマイオニーの落書きは、スタッフの字から一番それらしい字を選びました。ロンの字は下手だから、子どもの字を使ったりして。みんなそのこと自体が報酬になったと思ってくれています。 |
鳥越 |
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ボランティアの精神ですね。日本にもかつてはその精神が立派にあったのに、今や、何かというと公的なもの、つまり税金に頼るようになってしまっている。でも、21世紀はもう税金だけで社会を運営することはできないと思う。時間とお金に少し余裕のある人、志のある人の誰もが、社会の遅れている所や弱者に手を差し伸べることで、社会全体として何かをやる。そういうことを見直してみるべきです。神戸の震災でも、たくさんの若者がボランティアとして活躍しましたよね。あのときはショックを受けるほど、感心したんです。 |
松岡 |
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人を助けることで、逆に自分が精神的に助けられていることもありますね。 |
鳥越 |
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与えることも歓びであるということ。与えるだけではなくて、もらうものもある。それに気づいた若者が増えているのかもしれません。 |
松岡 |
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だから、”若者は””子どもは”と何でも決めつけてかかるのは間違いなんですよね。この本だって、初めは「子どもはこんな分厚い本は読まない」と言われたそうです。でもローリングは”面白ければ、子どもたちは必ず読む”という信念を持っていました。あえて難しい単語も使って、結局、子どもたちはちゃんとついてきたんです。 |
鳥越 |
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よく分ります。本というのは読むとき苦痛じゃダメなんですね。やっぱり”面白い!”と思わず引き込まれる。そういうところから入っていく。ちょっと背伸びして。この本がひたすら子供向けに書かれていたら、ここまで売れなかったと思う。みんなが受け入れることはなかったと思います。「ハリー・ポッター」は子どもたちに活字への道を開き、「ホグワーツ校指定教科書」はたくさんの寄付をした。この功績は本当に大きいですね。 |
コミック・リリーフへ2億7千万円の寄付
ご協力いただいた書店、読者の皆様、ありがとうございました。
ダンブルドア校長にこれまでの寄付金をそっくりお渡ししました。
これで途上国の貧しい魔法使いの卵が、魔法を学ぶことが出来ます。
教科書がマグルの世界で入手できるのは、2003年の1月末までです。
マンティコアに襲われないためにも、どうぞ引き続きお読みください。
〜静山社内 ホグワーツ教科書部 一同
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※コミック・リリーフ:英国の慈善団体コミック・リリーフは、費用を一切差し引かず、寄付金を100%使って慈善活動を行なっています。
この広告は、ななさんからの情報です。Thanks!【2/21/2002】
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